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Still Lifeは、物でつくる小さな茶室である

  • 執筆者の写真: 松龍
    松龍
  • 6月16日
  • 読了時間: 8分

更新日:6月17日

PentaGuideで考える、物を通して自分のCoreを表現する方法


 Still Lifeという言葉を聞くと、多くの人は「静物写真」や「物撮り」を思い浮かべるかもしれません。


 器、花、果物、布、古い道具、日用品。そうした物を美しく配置し、光を当て、写真として仕上げる。もちろん、それもStill Lifeの大切な入口です。


 が、・・・

 Abox Photo Academyでは、Still Lifeを単なる物撮りとは考えていません。


 私たちが目指すStill Lifeは、物を通して、自分のCoreを表現する作品制作です。なぜ、その物に惹かれるのか。その物は、自分のどんな記憶や感情とつながっているのか。その物を通して、世界にどんな問いを投げかけたいのか。


 そこまで掘り下げたとき、Still Lifeは「被写体を撮る行為」から、自分の内側にあるものを、物によって外へ立ち上げる行為へと変わります。


 この考え方は、茶道とよく似ています。

 茶道では、茶碗、茶杓、茶入、釜、花、掛物など、さまざまな道具が用いられます。しかし、それらは単に美しい道具として置かれているわけではありません。季節、客、時間、空間、亭主の思い。それらに合わせて道具が選ばれ、取り合わされ、一つの場が生まれます。

茶室に入ったとき、私たちはただ道具を見ているのではありません。そこに流れる時間、余白、緊張感、静けさ、もてなしの心を体験しています。


 Still Lifeも同じです。

 器、花、布、果物、古い道具などを、ただ並べるだけでは作品にはなりません。物同士の関係、光、余白、背景、距離、質感、そして展示されたときの空間。それらが統合されたとき、Still Lifeは単なる「物の写真」から、ひとつの作品世界へと変わります。


 "Still Lifeとは、物でつくる小さな茶室"と言えるのかもしれません。


茶室




PentaGuideで見るStill Life


Aboxでは、作品制作を PentaGuide という5つの要素で考えます。

Personal Reason

なぜ自分がそれを作るのか。


Theme

作品を通して何を問うのか。


Motif

その問いを運ぶために何を選ぶのか。


Rule

どのような制作上の規範で反復するのか。


Style

最終的にどのような作品世界として体験されるのか。


 Still LifeをPentaGuideで考えると、RuleとMotifとStyleに制限がある状態です。

 そして、「何をどう撮るか」だけでは不十分であることが見えてきます。美しい花を撮ることはできます。けれど、それだけではまだ作品としての強度は生まれません。なぜ、その花なのか。その花は、自分にとってどんな意味を持っているのか。その花を通して、何を問いたいのか。どのようなRuleで撮り続けるのか。展示されたとき、どのようなStyleとして立ち上がるのか。

 この接続が生まれたとき、Still Lifeは「きれいな静物写真」から、作家のCoreを持った作品へと変わっていきます。

 PentaGuideは、作品を難しく考えるための理論ではありません。自分の中にある曖昧な感覚を、制作できる形に整理するための地図です。


物は、問いを運ぶMotifである


 茶道では、道具の取り合わせによって場の意味が変わります。同じ茶碗でも、季節や客との関係によって、まったく違う印象を持ちます。


 Still Lifeでも、物は単なる被写体ではありません。

 AboxでいうMotifとは、Themeを運ぶための装置です。たとえば、枯れた花を撮るとします。それは「枯れた花が美しいから」だけでは、まだ作品の理由には弱いです。その花が、失われる時間を運ぶのか。記憶の残像を運ぶのか。老いや喪失への問いを運ぶのか。それとも、終わった後に残る気配を運ぶのか。問いが変われば、同じ枯れた花でも作品の意味は変わります。


 Still Lifeで物を選ぶとは、きれいな物を探すことではありません。自分の問いを運んでくれる物を見つけることなのです。

高崎勉のStill Life作品

茶道の「見立て」は、物の意味を変換する力である


 茶道には「見立て」という考え方があります。

 本来は茶道具ではなかった物を、別の意味を持つ道具として扱う。日用品や古い物、何気ない物に、新しい意味を見出す。


 これは、Still Lifeにおいても非常に重要な力です。


 ただの石を撮るのではない。その石を「沈黙」「記憶」「時間」「重さ」として見立てる。古い布を撮るのではない。その布を「誰かがそこにいた痕跡」として見立てる。傷のついた器を撮るのではない。その傷を「使われてきた時間」や「壊れながら残るもの」として見立てる。


 見立てとは、物を別の物に置き換える遊びではありません。物の奥にある意味を、作家自身のまなざしによって立ち上げる行為です。


 ここでPersonal Reasonが重要になります。

 自分はなぜ、その物に惹かれるのか。その物は、自分のどんな記憶や感情とつながっているのか。その物を通して、世界にどんな問いを立てたいのか。


 Still Lifeは、物を見つめる表現であると同時に、自分自身の内側を見つめる表現でもあります。

茶道の「型」は、Still LifeにおけるRuleである


 茶道には、点前、順序、所作、道具の扱いといった型があります。一見すると、それらは自由を制限する決まりごとのように見えるかもしれません。しかし、型は表現を狭めるものではありません。むしろ、型があるからこそ、その人らしさが現れます。


 同じ道具を扱っても、所作の間、手の動き、空気の整え方、客への意識によって、その場に立ち上がる世界は変わります。型は、精神性を安定して運ぶための器なのです。


 Still LifeにおけるRuleも同じです。

 AboxのPentaGuideでいうRuleは、単なる撮影テクニックではありません。Ruleとは、Personal Reason、Theme、Motifを薄めずに作品へ運び続けるための制作上の規範です。

たとえば、Still Lifeでは次のようなRuleが考えられます。


 使う物は三点までにする。光源は一方向に限定する。必ず古い物を一点入れる。同じ距離から撮り続ける。花が枯れるまで撮影する。背景には生活の痕跡を少しだけ残す。

こうしたRuleは、表現を窮屈にするためのものではありません。自分のCoreをぶらさず、作品として反復するための仕組みです。


 Ruleがあることで、制作は偶然の一枚から、反復できるプロセスへ変わります。その反復の中で、作家の視覚言語が少しずつ純化されていきます。


 茶道の型が、その人の精神を場へ運ぶように、Still LifeのRuleは、作家のCoreを作品へ運びます。



Still Lifeは、PentaGuideを最も緻密に学べる領域である


 Still Lifeの大きな特徴は、制約が多いことです。


 人物や街のスナップのように、外の出来事が次々に変化するわけではありません。目の前にあるのは、限られた物、限られた空間、限られた光です。物の数。置く位置。背景との距離。光の角度。影の濃さ。器の向き。布の皺。台の高さ。プリントの質感。展示での余白。

Still Lifeでは、こうした細部のすべてが作品に影響します。


 一見すると、それは不自由に見えるかもしれません。しかし、この制約の多さこそが、Still Lifeの強さです。選択肢が少ないからこそ、ひとつの選択の意味が大きくなる。動きが少ないからこそ、わずかなズレが見えてくる。物が少ないからこそ、関係の精度が問われる。


 まさに、神は細部に宿るのです。


 Still Lifeでは、PentaGuideの5要素が非常に高い解像度で立ち上がります。Personal Reasonが曖昧であれば、物の選択が弱くなります。Themeが弱ければ、配置は単なるスタイリングになります。Motifが機能していなければ、物はただの被写体に戻ります。Ruleがなければ、シリーズは偶然の寄せ集めになります。Styleが弱ければ、展示したときに世界が散ってしまいます。


 つまりStill Lifeは、PentaGuideの接続不良がもっとも見えやすい領域です。


 それは厳しさでもあります。しかし同時に、学びやすさでもあります。なぜなら、どこが弱いのかが見えるからです。物の選び方が浅いのか。問いが立っていないのか。Ruleが曖昧なのか。Styleが展示まで届いていないのか。Still Lifeは、作品制作の細部を一つずつ点検できる領域です。そして、その細部を磨くほど、作品世界は高い解像度で立ち上がります。


 美しさも、偶然ではなく設計になります。余白も、何となく空けるのではなく、問いを通すための空間になります。光も、雰囲気づくりではなく、Themeを運ぶための構造になります。


 制約が多いからこそ、作品は緻密になる。緻密になるからこそ、作家のCoreは薄まらずに届く。


 この意味で、Still LifeはPentaGuideを最も緻密に学べる領域なのです。


Styleとは、展示で立ち上がる小さな茶室である


 Still Lifeの完成形は、画像データだけではありません。


 プリントの大きさ、紙の質感、額装、展示の高さ、作品同士の距離、ステートメント、空間の光。それらが統合されて、鑑賞者が体験する作品世界になります。


 茶室が、茶碗だけで成立しないように、Still Lifeも一枚の写真だけで完結しません。物を写した写真が並んでいるだけではなく、そこに入った鑑賞者が、ある時間、ある気配、ある問いの中に入ってしまう。


 その状態をつくることが、PentaGuideでいうStyleです。


 Styleとは、単なる見た目の統一ではありません。鑑賞者が作品の前に立ったときに感じる、世界のまとまりです。Still Lifeにおいては、物、光、余白、時間、展示空間が一体となって、静かな場をつくります。その場が成立したとき、Still Lifeは「写真の集合」ではなく、ひとつの作品世界として立ち上がります。


AboxのStill Life Courseが目指すもの


 AboxのStill Life Courseは、商品撮影のための物撮り講座ではありません。また、単に美しい静物写真を撮るための講座でもありません。


 目指すのは、物を通して、自分のCoreを緻密な作品世界として立ち上げることです。

物を選ぶ。物を見立てる。Ruleを決める。時間を受け止める。細部を磨く。展示でStyleとして統合する。このプロセスを通して、Still Lifeは「物の写真」から「自分の問いを持った作品」へ変わっていきます。


 写真が上達してくると、「何を撮ればよいのか」に迷う時期があります。美しい風景も撮れる。人物も撮れる。スナップも撮れる。けれど、自分の作品として何を積み上げていけばよいのかが見えない。


 そのような人にとって、Still Lifeはとても有効な入口になります。


 なぜならStill Lifeは、物を通して自分自身と向き合う表現だからです。


 自分はなぜ、この物に惹かれるのか。この物は、自分のどんな記憶や感情とつながっているのか。この物を通して、世界にどんな問いを投げかけたいのか。


 AboxのStill Life Courseでは、PentaGuideを使いながら、物を通して自分のCoreを作品世界として設計する力を育てていきます。Still Lifeは、物でつくる小さな茶室です。その中に、あなた自身の時間、記憶、問い、そして美意識を立ち上げていきましょう。




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