top of page

写真が上手くならない?それは「言葉」が足りないせいかもしれない。

  • Abox Photo Academy
  • 10月13日
  • 読了時間: 5分

 「もっと良い写真を撮りたい」「自分らしい表現を見つけたい」——。カメラを手に取ったことがある人なら、誰もが一度はそう願うのではないでしょうか。しかし、機材を新しくしたり、撮影テクニックを学んだりしても、なぜか自分の写真に満足できない。頭の中にぼんやりとしたイメージはあるのに、それが形にならない。そんな「もやももや」を抱えていませんか?

 もしそうなら、足りないのは写真の技術ではなく、あなたの内なる思いを捉える「言葉」かもしれません。この記事では、思考を言語化し、整理するための具体的なアプローチを紹介します。これらは単なるアイデアではなく、あなたの創作活動を根底から支える「メンタルツールキット」として、継続的に実践できるものです。


1. 最も重要なのは「Why(なぜ撮るのか)」

 写真を撮る行為には、明確な階層構造が存在します。それは**「Why > How > What」**、つまり「なぜ撮るのか > どう撮るのか > 何を撮るのか」という順番です。私たちはつい目に見える「What(何を撮るか)」や技術的な「How(どう撮るか)」に意識を向けがちですが、本当に強度のある作品の根幹にあるのは、常に「Why(なぜ撮るのか)」という問いです。この「Why」があなたの撮影における羅針盤となり、「How」という手法を決定し、最終的に「What」という被写体の選択に意味を与えるのです。

この「Why」は、以下の3つの要素が交差する点に、最も力強く現れると言われています。


Personal Reason(個人的理由): あなた自身の経験、記憶、価値観など、極めて個人的な動機。

Motif(モチーフ): 写真で繰り返し扱う、具体的な被写体や視覚的要素。

Theme(テーマ): その写真を通じて伝えたい、より普遍的な概念やメッセージ。

これら3つが重なり合ったとき、あなたの写真は単なる記録を超え、観る人の心に響く「作品」へと昇華するのです。


2. 思考の「解像度」を上げるマインドマップという道具

 では、どうすれば自分の「Why」を明確にできるのでしょうか。その強力なツールが「マインドマップ」です。ここで重要になるのが「思考の解像度」という考え方。思考の解像度は、以下の3つの側面から成り立っています。

深さ: 一つの事柄をどれだけ深く掘り下げられるか。

広さ: 一つの事柄からどれだけ多様なアイデアを広げられるか。

構造: アイデア同士の関連性をどれだけ明確に把握できるか。


 マインドマップは、イギリスの教育者トニー・ブザンが提唱した「情報の記録と整理、順位付けをする」ための思考ツールです。中心にテーマを置き、そこから放射状にアイデアを書き出していくことで、頭の中にある漠然とした思考を可視化し、上記の「深さ」「広さ」「構造」を一度に高めることができます。


 ある写真家はこう言いました。

”写真を撮るというのは、マインドマップを書くようなものだ。”


 これは非常に示唆に富んだ言葉です。撮影の中心には「なぜ撮るのか」という動機があり、そこから一枚一枚の写真が枝葉のように生まれていく。そして、最終的にどの写真を選び、どのように見せるかという選択には、その人の生き方や価値観、何に心を動かされ、何を大切にしているのかが色濃く反映されるのです。

 まずはペンと紙を用意して、中心に「なぜ私は撮るのか」と書いてみましょう。時間を決めず、思いつくままに最初の枝を5本伸ばしてみてください。


3. 日常を「再定義」するトレーニング

 思考の解像度を上げるトレーニングは、特別な場所や時間に行う必要はありません。日常の中にこそ、そのヒントは溢れています。

 例えば、Dr. Sarah Brosnanが行ったサルの実験について考えてみましょう。2匹のサルに石を渡すタスクを与え、報酬としてキュウリを渡します。サルは喜んでタスクをこなします。しかし、片方のサルにだけ、キュウリよりも好きなブドウを報酬として与え始めると、キュウリをもらったサルは怒り、不公平だと抗議します。

 このシンプルな事象から、あなたは何を連想しますか?「不平等」「嫉妬」「価値」「社会構造」「正義」…。同じ出来事を見ても、そこから広がる思考のマップは人それぞれです。この実験が示唆するように、大切なのは「目の前に起きていること(日常)を自分というフィルターを通して再定義する」試みです。この再定義の試みこそ、一つの出来事からマインドマップの「広さ」を鍛える直接的なトレーニングであり、サルがなぜ不公平だと感じるのかを問うことは、思考の「深さ」を鍛えるトレーニングなのです。

 今、あなたの周りを見渡してください。目に入った何気ない光景(例:机の上のコーヒーカップ、窓の外の雲)から、全く異なる3つのテーマを連想できますか?


4. 「自分」を分解して創作の核を見つける

 最終的に、写真表現は自己表現に行き着きます。より深い作品制作を目指すなら、「作家要素分解」という自己分析のアプローチが有効です。これは、自分自身を構成している要素(好きなもの、影響を受けたこと、こだわり、経験など)を一つひとつ言語化していく試みです。

 なぜ自分は寂しげな風景に惹かれるのか。なぜ特定の色彩にこだわりを持つのか。この自己分析を通じて、自分の創作の根源にある動機やテーマを理解することができます。自分という人間を分解し、その要素を深く知ることこそが、他ならぬ「あなた」にしか撮れない写真を生み出すための、最も確かな土台となるでしょう。突き詰めれば、この自己分解のプロセスこそが、あなたの根幹にある「Personal Reason(個人的理由)」を発掘し、繰り返し現れる「Motif(モチーフ)」を特定し、そして作品全体を貫く「Theme(テーマ)」を明確にするための、最も実践的な方法なのです。


結論

 写真の上達とは、単にカメラの操作に習熟することだけではありません。それは、自分の内面と向き合い、「なぜ撮るのか」という問いを立て続け、その答えを言葉にしていく、終わりのない旅のようなものです。

 マインドマップを使って思考を可視化し、日常を自分なりに再定義するトレーニングを重ね、自己分析によって創作の核を見つけ出す。こうした言語化の実践は、一度きりの作業ではなく、生涯を通じてあなたのアートを深めていくための継続的なプロセスです。このプロセスこそが、あなたの写真という視覚表現を、より深く、よりパーソナルなものへと変えるための、最も強力な武器となります。

 あなたの次の写真、その中心にある「言葉」は何ですか?


Abox Photo Academyが開催するWorkshopで実際に書いてみましょう。



コメント


bottom of page