Abox People Vol.6「アートフォト講座」受講生 山本 瑛美さん インタビュー

最終更新: 10月12日

interview Vol.6

アートフォト講座受講生 山本 瑛美さん インタビュー

聞き手:聞き手:Abox Photo Academy

アートフォトコース担当講師 松龍 & 高崎勉


山本 瑛美

 今回は「Abox Photo Academy 写真展 2019」の開催を1ヶ月前に控えたアートフォト講座アドバンストコース受講生の山本 瑛美さんのインタビューです。出展メンバーの中で唯一2シリーズの作品展示に挑む山本さん。Aboxと出会って自身の作品がどのように変化したか、そして展示を前に現在の心境をお話くださいました。



【 極めたくなる性分。】

高崎:こんにちは。今日は趣向を変えて僕のアトリエにお越しいただきました。わざわざありがとうございます。そして松龍先生もお話にご参加いただきます。


山本:はい、よろしくお願い致します。


松龍:山本さんは展示に関してはどのくらい経験あるんでしたっけ。


山本:個展は2016年の12月にやりましたね。あとは2017年の4月にその時通っていたスクールの卒業展に参加しました。実はそこからは展示はやっていないんですよね。ですから来月のAboxPhoto Academy展(以下、Abox展)は2年振りになりますね。特に2016年は集中してたくさんの展示に参加したんですが、そのあと仕事が忙しくなったりして。


高崎:IT系のお仕事でしたっけ?


山本:はい、そうです。


高崎:じゃあ、まず、、これは必ずインタビューで伺っていることなんですけど、写真を始めたきっかけはなんですか?


山本:旅行に行くのが好きで、旅先で見た風景をそのまま切り取って持ち帰りたいっていう気持ちがあって。あと、食べることが好きなんですが旅先で食べたものを写真に撮って、帰ってから友達に見てもらったりしてたんですが、見たものを記録としてそのまま残したいっていう動機で始めました。


高崎:なるほど。でも、山本さんの世代だと子供の頃はきっとフィルムカメラだったでしょうけど、一家に一台はコンパクトカメラか一眼レフがあって、写真は身近なものだったのではないですか?そのあたり、カメラとの関わりはどうだったのでしょう。


山本:私がカメラを買ったのが2011年で宮崎あおいさんがオリンパスの広告に起用されたり、ペンタックスでカラーバリエーションが豊富なシリーズが出たりと、、、各メーカーが女子にターゲットを向け出して、ハードルが低くなってきた時期でしたね。私、もともと大学に入った頃もちょうどコンデジで可愛らしいピンクで安めの機種が出はじめた頃だったんですが、一眼はまだ学生にはちょっと値段が高くて手が出せない代物だったんです。社会人になってからは韓国にはよく行ってたんですが、ニューヨークに旅行することになって、そのタイミングでカメラを買ったんです。


高崎:最初に買った機種はなんですか?


山本:ペンタックスのK-rです。さっきお話ししたカラフルなバリエーションがある機種ですが白を選びました。


高崎:で、現在使っているのが?


山本:デジタルはキヤノンのM3、フィルムカメラが母親からもらった初代のEOS-KISSです。確か92年発売のモデルだったと思います。


高崎:じゃあ、子供の頃から普段の暮らしの中で写真が身近にあったわけでは無いん、、。

山本:父も母もカメラだけじゃなくレンズもいろいろ持ってたんですけどね、、。私自身も親も、私がこんなに写真にハマるとは全く思ってなかったです。


松龍:写真をやろうと思ったとき「カメラ貸して」って親に言うと借りられる環境にはあったんですね。


山本:そうでしたね。「キヤノンならあるけど、、」って言われたんですがペンタックスが良いって。どうせそんなに深く入り込まないし、可愛いのが良いって(笑)。でも暫くして交換レンズも欲しいなってなった時に、そういえば家にレンズがいっぱいあったなと。。


松龍:カメラ女子の流れに、まるっと乗っかっちゃった感じですね。


山本:まさにそうですね。


高崎:ご実家はどちらでしたっけ。


山本:千葉です。


高崎:じゃあ、ちょっとカメラ借りに行こう。って思えば、気軽に帰られる距離ですね。

山本:そうです。「ちょっと帰るね。」って言いながら、実はレンズを狙ってたりして(笑)。マクロレンズなんかも「父親が確か持ってたな~」って。そうやって借りて使ってました。


高崎:ちなみにご両親はカメラで何を撮っていらっしゃったの?


山本:父親はワインが好きで、ソムリエの資格を持つまで極めてたんです。フランスに住んでいた時があって、葡萄畑を撮ったりしてました。今は仕事をリタイヤしてるので家庭菜園の野菜や植物なんかを撮ったりしているようですが。母親も旅行が好きで旅先で撮ったりとか、あと庭先の花を撮ったりしてますが、あまり私たち子供を撮るってことはなかったですね。


高崎:僕の場合は実家がカメラ屋さんだったからお客さんを見ていると、旅行に行って家族や友達との記念写真を撮ることが写真を撮るきっかけとして多かったように思うんですね。でも、お話を伺っていると山本さんも、ご両親も「これが撮りたい、記録したい」っていう明確な目的があって、その道具としてカメラなんですよね。


高崎事務所内でのインタービュー

山本:そうですね。「なんとなく。。」というのがあまり無い家系というか、(笑)


松龍:多分、山本さんが何かに興味があって写真を撮るっていう流れの中にお父さん的なアプローチが結構あるんじゃないですか。


山本:そうかもしれません。ハマったら極める。っていうところや、突き詰め方は結構似てるんでしょうね。


松龍:普通は撮る行為、カメラっていうものに興味が行くけど被写体に深い造詣を求めていくっていうのはあんまり無いでしょう。ちょっと珍しいなって思ってた。


高崎:お母様のカメラは?


山本:父親からプレゼントされたそうです。初めは使いこなせなくて写真教室に通ったそうですけど、そこまではのめり込まなかったみたいですね。そこで眠っていたものが私のところに来たっていう感じですね。


高崎:ご兄弟はいらっしゃるんですか。


山本:妹がいます。


高崎:お母様のカメラを使わせてもらうっていうことで、妹さんと写真についてお話ししたり、写真展に呼んだりっていうことはあるんですか?作品に対して意見をもらうとか。。


山本:写真展には来てくれるんですが、アートに特別な興味があるようではないので、旅行に行って何食べたという記録とか、それこそスマホの写真で済むみたいな感じですね。父とは作品の話になったりもしますが。


高崎:山本さんの中では写真イコール作品、アートっていう風に、もうなっちゃってるんでしょうかね。


山本:始めた頃はそうじゃなかったんですけどね。


高崎:それが切り替わったのはきっかけはなんだったんでしょう。


山本:カメラを買ったのが2011年、他の写真教室に通い始めたのが2013年で「絞りがどうこう、、、」といった初歩的な技術を最初の1年くらい学んだのですが、操作はわかってきたんだけど夢中になれないっていうか、、、。何を撮るっていうのも操作を身につけるために被写体を探してた感じで、あまり楽しめなかったのですが、2年目くらいから自分の色というか、個性とかって話になってきて、その頃たまたま料理写真の講座に通って、好きだったパンを撮るようになったんです。でも他の人と同じように撮るのがつまらなくなって、、自分では普通に撮っているつもりなのに、寄ってアンダー目に撮ることで「面白いね」って言われるようになって、、そこから自分じゃ普通に撮っているつもりなのに、知らない間に好みとか個性とかちょっとずつ出てきて、いろんな人に見てもらったらそれまで「ただの記録だ」って決めつけていたのが、「写真って表現として自分の個性を出していい場なんだ」。って思うようになったんです。そしたらハマっている自分に気づいて。「自分に合っているのかも。」って思ったんですね。背景に文脈が必要だったりとか、写真を始める前から、自分の中でよく解らないこと、モヤモヤしたことがあって、自分の哲学を探したりとか、そういうのもぶつけて、、。そこから一気に人に見てもらいたいっていう欲と、探したい欲とがあって、のめり込みましたね。


高崎:もともと「自己表現」に対しての野心というか、やりたいなぁ。っていう気持ちがあったんですね。


山本:もともと絵を描くのが好きで、高校生の時に美大への進学も過ぎったんですよ。でも一応進学校だったこともあったし周囲の反対もあって。フランス文学の芸術専攻にいったんですけど諦められなくてイラストやグラフィックの講座も大学通いながら行ってたんですよね。だから何かを表現したいっていう気持ちは強かったんです。


高崎:そうなんだ。


山本:絵やアートは好きで、ただ知識がなく詳しくはないんです。何かアートに関わっていたいとは思っていたんですが、社会人になって忙しくなると次第にそんな気持ちも忘れていっちゃって、、ただ自分が周囲と比べて「変わっているな」というのは何となく気づいていて、だから他人から「変わってる」と思われないようにも自己表現はもう自分にはできないんじゃないかって決めつけかけていたんです。


高崎:自分を押さえつけていたんだね。


山本:そうですね。社会人になってからは普通に思われたかった。(笑)


高崎:それがだんだん覚醒されていったと。


山本:普段からやりたいことはパッとやってしまうタイプではあったんですけど、、、、例えば韓国にハマって韓国語を勉強して短期留学したりとか、とことん追求したくなる性格ではあるんです。それが普通だと思ってたんですけど、、のめり込む性格のことは友達にも突っ込まれることがあって。


高崎:他者との違いが、浮き彫りになってきたのがその頃なんだ。


山本:抑えつけるのは無理なんだけど、、、人はこういうこと考えるんだとか、自分の性格はこうなんだとか、物事ってこうだなとか、いつも考えちゃっているんですよ。それをぶつけて表現したいって思うようになったんです。写真をやっていて、自分の行動だけじゃなくて何かに残して見てもらいたいって。。。。そう思っていいんだって。写真をやって表現していいんだって。


高崎:お話を伺ってて面白いなって思ったのが、今度のAbox展で招待作家として富山校から2名受講生の作品を展示するんですけど、そのお二人ともが、写真よりも先に絵画をやっていらしたってことなんですよ。堂川嘉久さんは元々美大志望。でも山本さんと同じように進学の道としては別のコースを歩まれた。粕谷千春さんも子供の頃から絵画のコンテストで入選していたらしいんだけど、写真を始めたのはずっと後なんですよね。粕谷さんに関してもやっぱりEOS-kissで愛犬を撮ることから始まったらしいんですけど、僕の講座を受けられてから「自己表現してもいいんですね。。」って、尋ねられた。その二人と山本さんが同じ会場で作品を展示するっていうのは面白いなって思いますね。まあ、仕組んだのは僕なんですけど、、(笑)


松龍:書でも絵画でも、ゼロから紙に筆で一本線を引くところからオリジナリティって出るじゃないですか。写真って押せば写る。だから押しただけじゃオリジナリティは出ない。そこで逆にオリジナリティのエッジを立たせるために「なぜ撮った」という話になるからこそ、写真はスイッチが入ると、深いところに連れて行ってくれるんでしょうね。


山本:スイッチが入るまでは全然面白くなくて、、、(笑)。一番最初に通った写真教室でグループ展をやろうってなった時に私は参加しなかったんですね。その時、自分の写真を他人に見てもらおうっていう気になれなかったし、皆でやる意味ってあるのかな?って主張したら、「やっぱり変わってるな」ってまた思われたんですけど。。。


松龍:山本さんの場合、自分のトリガーを引いたのはパンの作品なんだよね。。写真を始めた頃、旅の写真撮って周りから「いいね」って言われても、展示するまでには自分が納得していなかったでしょ。


山本:そうですね。


【 パンと私。】


高崎:今日は作品プリントもお持ちいただきましたけど。


山本:はい、Abox展の最終セレクトはまだなんですが、この2シリーズから展示します。


松龍:いくつか写真教室に通っていらしたけど、パンを撮り出したのは割と習い始めの頃なんだっけ。


山本:そうですね。2年目の後半からです。


パンと私

松龍:好きなパン屋さんがあって、そこで買ってきたパンをひたすら撮り始めたんでしたよね。それが写真教室の提出作品になっていったと。


山本:そうです。好きなことに対しては敬意を払いたいっていうのがあって、表面だけで好きっていうんじゃなく、パン検定を勉強して取得して、「そこまで好きなんだよ。」って言いたくて。


松龍:そう、だからたまたまパンだっただけで、それがワインでもチーズでもコーヒーでもなんでもよかったんだよね。


山本:そうです。その時に興味があったのがパンだったということです。パンの写真にここまでハマったのって、4年前にフィンランドに行った時に本屋さんでパンのレシピ本を見て、それが(露出)アンダーで格好良くって、、。後にも先にもあんなに衝撃を受けたのって初めてだったんです。それでまずはこの真似をして撮ってみようと思って、「自分がやりたい表現ってこういう世界だったんだ」って気づいたんです。最初は模倣だったのが続けていくにつれて、、今じゃもう、その本を見ても自分の作品とは全く違うんですけど、ターニングポイントになりましたね。あの本との出会いがなかったら、写真自体もこんなに続けてなかったと思うんです。


高崎:写真って見る環境が変わると印象も変わりがちだけど、いつもは教室で拝見してて、今日は僕のアトリエでこうして改めてパンの作品を見ると、、、イメージ変わらないね。(笑)しっかりした核があるからなんだろうね。


山本:そうですか?


高崎:強いね。


山本:意思が強すぎるのかな。


高崎:だから良いんじゃないの。その影響を受けた本のトーンと違って個性が出てきたっていうのは何故だと思う?


山本:自分が表現したいもの、心情、撮る理由みたいなものがだんだん加えられるようになってきたからだと思います。


松龍:その、「撮ること」に理由が必要というか、自分にとって「撮る理由」が強化されてきたきっかけってなんなの?


山本:やっぱりAboxに通ったからというのが大きいかもしれないです。それまでは、なんとなくタイトルと、それっぽいキャプションを添えて、ちょっと個性のある作品を出せば評価されていて私もそれで満足していたんですけど。パンの作品に関しては周りは次を期待してくださるんですが、自分としてはそんなに新しいものは次々とイメージ湧かないし、、、でも、一本自分の中に筋が通っていて理由があると強いのかな。って気づき出した頃に、Aboxに入ってそれを確信したんですよね。その理由探しをお二人にサポートしていただいて、辿り着くことができたと思っています。


松龍:そうね。最初Aboxに来た頃は迷いがあったよね。


山本:ふわふわしたところがありました。


松龍:これと向き合いたい、っていう気持ちはすごく強いんだけど、その迷ってる波動がビンビン伝わってきて、、、ただ僕はその迷っているところがすごく心地よくって。作家って迷ってないとすごく気持ち悪いっていうか、消費されるものを綺麗に作っているだけじゃなくて、その迷いこそが根幹にあるものだって思っているから、、。あまり手助けはせず、答えがあってもそれは僕の答えだから自分で見つけなきゃって思うんだよね。本人はイライラしてたのかもしれないけど。


山本:イライラっていうか、私の場合、もやもやしたものがあった場合、それを明文化というか、理論として「ここはこうすれば解決する」っていうように考えるから、、そこに辿り着くまでの間はイライラしてるように見えちゃうのかもしれないですね。


松龍:その影響受けた本はしっとりした、暗い世界の作品なんだろうって想像つくけど、そもそも、こんな風に撮る人ってそうは居ないし、見た目じゃなくって理由が大事って山本さんの理由がもうここに確立されているっていうところまで来たんだと思うね。


山本:ありがとうございます。


松龍:今朝、たまたま日曜美術館を見てたら、騙し絵で有名なエッシャーっていう画家が特集されてて、僕はずっとエッシャーのこと誤解してたんだけど、あの人って人を騙して喜んでいるのかと思ってたんだけど、あの騙し絵を書くためには人が網膜上で錯覚するにはこういう理論が必要だっていう方程式を解いて、それを絵にしている。数学者と画家とを行ったり来たりしている。


山本:理論があるんですね。


松龍:計算されてんだ~って、、、。なんでそんな話をしたかっていうと、エッシャーが尊敬していた版画師(メスキータ)がいて、その人が第二次世界大戦でオランダで迫害されて殺されちゃったんだけど、その人のこと凄く尊敬してるから初期の頃の作品が全く一緒の感じで作ってるんだよね。今日お話を聞いてて、やっぱりリスペクトしているものに近づきたいっていうか、その境地に至ってみたいって真似をしたその先に独自の路線に行くって、山本さんも同じ道を入ったんだなって、、今、エッシャーが目の前にいるような気がした。(笑)


山本:(笑)


松龍:パンのシリーズは、ここで一旦着地した感じなんですかね。


山本:どうなんでしょう、、展示を終えてもうちょっと外に発信したい気持ちがあって、どこまで響くのか?響く層はあるのかどうか、どこなのか?狭い内輪だけで満足したくないという気持ちが出てきましたね。


松龍:さっきの話のもう少し先に行くと、、ただ被写体を撮るためのテクニックから、撮る理由へと移ったじゃない。で、さらに言うと、見せた人は必ず何か反応するよね。そこに対して山本さんはどんな感想を抱いているの?


山本:何も言わないで通り過ぎる人もいますけど、言ってもらえることが嬉しいって気づいて。さらにパンの写真については「こんなの見たことがない。」って言われるとは思わなかったので、自分の個性が出ているんだと、もっと続けていいんだと気付かされましたね。あと、展示場所や客層によっても違うんでしょうけど、自分のお気に入りとは違うものを他の方が気に入ってくださると、「こんなにも捉え方が違うんだ」って面白かったですね。


高崎:ご覧くださったお客様から教わったんだ。


山本:旅の写真も展示したことがあるんですが、その時に「やっぱりパンの作品の方が個性があるね」って言われて凹んだりもしました。。Aboxに通い始めた時に旅の写真も講評していただいてましたけど、そんなこと言われないようにしようっていうのが裏目標になっていました。ですから旅写真もちゃんと考えて理由を持って撮ることができるようになったのは大きな収穫ですね。


松龍:なるほどね。まだ多分、、本当の反応、、、皆さん感想は言ってくれるものの、そこから見た人の心に種として埋まり、行動として表れるように、その人の考え方が変わるというところまで、、まだ体感していないんじゃないかって。そこを通過したらやめられなくなる。僕もそうなんだけど、そこを目指していけるといいなあって思うね。


山本さんが誰かの影響を受けたっていうのと同じように、パンの作品を見せた相手が影響を受けたっていう人っている?まだいない?


山本:まだ、自分ではわからないですね。


松龍:真似される側に立つっていうか、「面白いね~ちょっと私もやってみよう」って、いうことは、山本さんが誰かからもらった種から花が開いたように、この種が次に渡っていくっていう連鎖が生まれると素敵だなって思うんですね。そのためにはまず数多くに方に見てもらわないと。発芽率って低いからたくさん種を蒔くって必要なんだよね。だからAbox展をそういうステージにしたいっていうのがあるんです。


旅に出て写真を撮る意味

松龍:以前、作品を販売するっていうことにあまり興味がないって言ってたけど、、。


山本:そうですね~。気に入っていただいて持ち帰ってもらえるっていうのは嬉しいんですけど、販売そのものに気持ちは結びつかないですね。


松龍:じゃあ、『これを額に入れて額代と紙代とインク代をいただければ「どうぞ」』っていう感じなんだ。


山本:私の作品を飾りたいって思う人はあまりいないんじゃないかって、、売る写真じゃないっていう気がします。売ることにとらわれて。自分の表現を曲げる、、売るにはこうだよね。。っていうのは嫌なんです。


松龍:なるほどね。マーケットにおもねることをしたくない。


山本:そう。仕事じゃないから売れる写真を撮ることが狙いじゃないので、そこに合わせることはしたくないですね。


高崎:でも、売れたら嬉しいですよね。(笑)


山本:(笑)そうですね。


高崎:だから、「あなたの作品にそれだけの価値がある」と言ってくださることが嬉しいですよね。


山本:でも自分でもプリントして並べると暗い気持ちになる、。。。


高崎:(笑)


山本:でも、暗い気持ちになるんだけど、自分の写真って、上手いと評価される部類のものじゃないんだけど、、、好きなんですよね。すごく。自分は見ていたいけど、普通の人は長時間この写真を見ていられないよな、、って。冷静に思います。


松龍:僕は全然平気だけど。、、まあ、平気じゃないのもあるかな。(笑)


高崎:だから、逆に言うとハマるとずう~っと長く見ていられる。っていうことなんだよ。


マーケットについて

山本:なるほど。。


松龍:これはある種、風景写真のような。。


高崎:宇宙だよね。


松龍:山本さんのパンの作品は哲学が入っているとはいえ、風景写真に近いから山本さんが思っているほど暗く重くはないと思うよ。



【 旅をするということ。】


高崎:では、旅写真の方にお話を。


松龍:まあ、パンの写真はさっき馴れ初めをキチッと語っていただいたけど、、。作家活動に入る前から、もともと旅写真は好きだったんだよね。でも、これって単なる旅の記録じゃないし、旅写真とは明らかに違うよね。このシリーズってAboxに通いだしてからこうなったの?


山本:そうですね。それまでって、、被写体に撮らされたくないけど、ちゃんとした意志がまだ明確じゃなかったから中途半端で、、。でも旅行が好きだから撮り続けるんだけど、どうすればいいんだろうって悩んでいましたね。パンの作品を展示し始めた頃から、旅の写真でブックを作ったりはしてたんです。一枚一枚は弱いんだけどブックにまとめることで旅の写真も「なんかいいじゃん」って言ってもらえたことで、なんとなく心の励みにしていたんです。作品はパンのみに絞らないで旅写真も続けようって。いつか、パン写真を撮り続けていたら何か向き合い方とか、撮り方とかが見えてくるものもあるんじゃないかと。きっと次第に好みとか、ツボが見えて来るんだろう、自分が普段考えていたことと結びつけられるんだろうって。Aboxに通いながら旅行を続けることで目線とか捉え方が変わってきましたね。


松龍:もう、記録写真ではなくなってるもんね。もちろんシリーズ作品として完成度が上がってきているから、一旦区切ってもいいかなっていう段階に入ってきたよね。ステートメント、撮る理由、手法、それらが洗練されてきている。でも、いきなりここまでは来ないから、途中は一体どんな様子だったんだろう。、、、じゃあ、そもそも旅行はなんで行きたいの?


山本:行くことがもう当たり前になっているから、、日本にずっといたくないし。小さい時から海外旅行に家族で行ったり、あと幼稚園から小学生の頃まで3年ほど父に仕事の都合でフランスに住んでいた時もあって、海外に行くこと自体抵抗がないんです。、気分転換したいとなると国内じゃなく、できれば海外に行くんですよ。


松龍:旅が生活とか、人生の句読点になってるんだ。


山本:それが以前は韓国だけだったんですけど、だんだん他の国にも行きたいっていう余裕も出てきて、行ってみたらこんな世界もあるんだって広がってきて、とりあえずベタなところは行きたいなと。


松龍:山本さんならではの極める生き方で韓国は極めたけど、違う国も見たいと。じゃあ、韓国以外で最初に自分で行ったのは?


山本:確か、、ニューヨークか台湾でした。


松龍:ニューヨークか台湾じゃ、全然違うよね。(笑)台湾だとなんとなく韓国からまた一歩先の、、っていう感じだけどね。今まで何カ国か行ってるようだけど、心に残った場所は?


山本:ポートランドとヘルシンキですね。ポートランドは街自体が「変わってていい」みたいな、そう掲げている看板もあって。日本って今になって多様性の時代とかって言ってるけど、日本で言っているのってファッション的なもので、「多様性って言ったほうがイメージが良いから」みたいな上辺的な意味合いだけのような気がして、まだ普通じゃないと生き辛い気がしますけど、向こうは本当にみんな変わってて、接客業の方がタトゥーいれてたりとか、髪がピンクでも全然普通に社会に受け入れられてるし、あと、ご飯も美味しくてオーガニックで。日本でオーガニックっていうとお洒落なブームで扱われたりしている感じがしますけど、それを素でやっていて、飾りっ気がないけど自然に暮らしに取り入れられてて、そんな感じが魅力で。でもいわゆる観光名所とか、大きなウリはないコンパクトな街なんですけど、そこがいいなと。


松龍:つまりそこに生きている人たちの社会そのものが共感できるものが多くて山本さんにぴったりハマったんだ。


山本:そうです。ヘルシンキについてはもっと漠然としたものなんですけど、曇った時の空気感だったり、建物も荘厳な感じではなく。きっとコンパクトな街が好きなんでしょうね。世界遺産とか、大自然にはあまり興味がないですね。フィンランドに行ってもオーロラには興味なかったし、街歩きしている方が好きですね。治安が良くて街の人たちも楽しそうで優しくて、ご飯が美味しくって、、、デザイン文化も日本に全然ない配色で見てるだけで楽しいんです。


松龍:なんとなくわかった。。そうだとすると、まだ何箇所かありそうだよね。ハマる街が。


山本:そういう場所を探してるんです。でもなかなか見つからなくて。調べても、やっぱり世界遺産がどうとか、インスタ映えするのはここだとか、そんな情報は氾濫してますけど、、、


松龍:気になるのは暮らしぶりだもんね。


山本:そうです。ライフスタイルに惹かれると風景が全部いとおしく見えてきますね。




【 撮る意味と発表する意味。】


高崎:Abox展ではパンと旅の両方を出されるんですよね。


山本:はい、そう思ってます。


高崎:え、この期に及んでまだ迷ってるの?(笑)


山本:(笑)いえ、ほぼ決めてますけど、、。あと一ヶ月ですね。


高崎:僕はいろんなことやるときに違う面を見せようとすると、昔のレコードみたいにA面、B面みたいに分けることがあるけど。でも今日のお話を伺ってると、山本さんの中でスイッチを切り変えて、、っていうわけでもなさそうなんだよね。


山本:そうなんです。どっち面というより、両方が私。


高崎:作品を講評している立場からいうと、パンの作品は本当に独自の世界。哲学が入ってるし、僕さえも安易に立ち入れない領域がしっかりしている。だから最初にテクニカルの相談しか、確かマクロレンズと被写界深度の話だったと思うけど、ちゃんとアドバイスしたのはその程度だよね。あとはお話をしてもらって自分が喋りながら、考えを組み立ててまとめていくための聞き役のような。


山本:そうでしたね。


高崎:で、しばらくして旅の写真を見せてもらった時は、やっとアドバイスできるかな。って思ったんだけど、結局旅写真の方も強固な見せたいテーマのようなものがあったから、やっぱりパンの作品と向き合い方は同じなんだな。。って感じた。


山本:そうですね。


高崎:Aboxって写真講座なのに、哲学の話になったりするからねえ。。(笑)


山本:私もそう思いました。(笑)


そこにある変化を写すために

高崎:これは、講師の一人が松龍さんだってことが大きく影響してるよ。松龍さん自身がダーウィニズムから入ってるし。あと受講生の誰かが、大塚さんだっけかな「深淵を覗く」ってテーマで作品を持ってこられて。。。あれって、ニーチェでしたっけ?自分の学校なのに「凄いとこだな」って思いましたもん。(笑)


松龍:「なんで?」って、こっち(講師)は必ず尋ねてくるからね、ちゃんと答えなきゃって、明快な答えがないにしても考えてくる、考えようとするから、そうなっていくのかなと。。


山本:授業を振り返ってみて、自分があれだけ喋ることができているのが凄く不思議なんです。全然言葉を用意していなくって、でも聞かれても自分のこととしてちゃんと考えがあるものだから、スラスラ言葉が出てくるんですけど、普段は全然喋れないのに写真だと自分の考えをまとめられてるんだって気づきましたね。


高崎:そこは僕も一緒ですよ。やっぱり作品制作というものと対峙していく行為というのは、ただ写真を撮って並びの順番をつけることじゃなくって、相当考えをまとめて強靭な文脈にしなきゃいけない行為だから、自分の写真のことになると自然と言葉が出てくるんだよね。で、勘違いして結婚式のスピーチなんか引き受けたら、もうグダグダで。


山本:(笑)


高崎:過去に面白いことがあって、プロカメラマンとして写真一筋で生きている人と、松龍さんや山本さんみたいにお仕事をしながら写真家として生きている方の半々の方々が参加しているイベントに参加したんだけど、、もう、コマーシャル一筋の人は全く喋れない。。話せても苦労話と機材のことくらい。結局、作家性を持ち合わせていてそこを突き詰めようと戦っている人は、プロだろうがアマチュアだろうが自分の言葉を持っているから話が面白いんだよね。


山本:なるほど~。


高崎:なぜ今この時代に、このテーマで作品を発表するのかって、強い意志を持っているのはほんの一握り。特に東京はギャラリーがいっぱいあって比較的簡単に写真展ができるけど、強靭な文脈がある人って一握りだよね。山本さんの写真からは充分にそれが伝わってきていますね。


松龍:さっき「もう、ただの記録じゃないよね。その違いはなんだろう」って話になったけど、やっぱり「理由」なんだと思うんだよね。僕が山本さんの作品講評の中でやり取りさせてもらっていて明確に覚えているのが、、、「旅に行き、日常使っている脳が解放され、いつもは気がつかないものに気づけるように旅に行ってそれを撮るんだ」とおっしゃっていたけど、それで全て納得がいくっていう。その言葉が出てきたことで、「山本さん、来たー!」って思ったよね。


山本:それに気づくのに自分でも時間がかかったし、先生方から色々アドバイスをもらったから辿りつけたと思います。初回の授業で旅行の写真も持って行ったんですけど、「まあ、普通だな。」って言われたのが強烈で、、。負けず嫌いなところがあるんで、「絶対に自分が撮る意味を見つけてやるんだ。」って、自分の作品としてものにするんだってことを目標にしてきたんですよ。


松龍:負けず嫌いっていうのはいいよね。大事だよ。


山本:自分では厄介な性格だなって思うんですが。(笑)

Green door

高崎:僕はやっぱり、これがインパクト強かったかな。(グリーンのドアの写真)


松龍:そうだね。


高崎:この辺りから進化を遂げていったという気がする。山本さんは今回一緒に展示するメンバーの中で気になる写真家はいますか?


山本:もう、皆さんからそれぞれ違う刺激をもらってるんで、全員について語れるくらいですよ。(笑)もう自分がこのクラスで落ちこぼれだって思ってるから。


高崎:そんなことはないでしょう。ないけど、それはみんなが自分のことをそう思ってるかもね。みんな全く違うから。


山本:どう悩んで、どう迷って、どう解決していくかっていうことが、一人一人伝わってきて、本当に刺激を受けて、、、、それだけでもAboxに来た意味があったって思ってます。


高崎:同じ旅を撮っててもね、山本さんとホンさんと梅原さんとでは全く違うし、山本:全然違う。


高崎:普通なら少しは似ていくんじゃないかと思うんだけど。(笑)


松龍:強烈に社会性も含めたパーソナリティーが出てるよね。


【 Abox展2019に向けて。】


高崎:さて、いよいよ展示まで大詰めっていうところで、面白くなってきましたね。とても楽しみですよ。Abox展。


山本:私の作品は少しだけ説明があった方がいいんじゃないかって思うようになってきました。


松龍:それはね、ちょっとでいいよ。


高崎:今回はグループ展だから長々したステートメントではなく、簡潔なステートメントにした方がいいよね。みんなが長い文章を読ませると鑑賞者が疲れるから。


山本:はい。そうします。


高崎:僕はね、今まで展示というものに関わってきて思うんだけど、2通りあると思うんです。作家の名前を売るために前のめりにアピールしていく形と、会場に来てくださった方が作品だけと対峙してくださってその世界に浸ってほしいという展示と、、、それは展示それぞれのコンセプトっていうことになるんだけど。僕がその両方をやってきて思うのは、グループ展にしかできないこと、個展にしかできないこと、またはその会場の力を借りてしかできないこと、それぞれあると思うんです。でも今までで一番嬉しかったのは、作品とお客様が勝手に世界を作り出しちゃってる瞬間に立ち会った時は、正直言って名前や作品が売れることよりも作家冥利に尽きると思った。


山本:そうなんですか。


松龍:さっき、パンの写真の話の中で「自分が講評に出した作品で自分がいいと思っていないものを他人から評価された。」、、、っていうことは、、作家が作品を世に出した時にコミュニケーションの反応として出逢う、最たるものだと思うよ。見せた瞬間、自分のコントロールから離れ、他人のものになってゆくじゃない。今、スティングが日本に来てて、インタビューで話してたんだけど、彼の歌を聴いて私は結婚式を思い出します。っていう人もいれば葬式を思い浮かべる人もいる。同じ曲なのに受けとめ方が全く違うんだと。


山本:うんうん。


松龍:歌って確かにそういうものだよね。多分僕たちがやっている作品も同じで「これ」が写ってはいるけれど、撮った山本さんは「何か」を意図してる。でも見てる人は全くそれは関係なくって、そこから「別の何か」を貰っていくものだと。。。そういう意味では、あまりゴチャゴチャと説明しすぎない方がいいよね。むしろ貰って行こうとする行為を奪っちゃうことになるわけだから。


高崎写真事務所の屋上にて

高崎:最後にAbox展に向けて意気込みというか、山本さんの狙いのようなものはありますか。


山本:作家の名前を世に知らせたいとか、自分の考えを共感してほしいというより、、、、今、私が普段から考えていることや、こういう表現が好きだということ、あと、2年ほどオープンに写真を見てもらっていない状況なので、その期間にこういう表現を突き詰めて、考えて、結果こういう考え方も存在する。それを今の私はやっているんだよって、知ってもらいたいです。そして、以前は個展をやった時に旅とパンと両方の作品を混じらせることができなかったんですが、今はそれがだんだん寄ってきてるんだよって。同じ自分が貫けてきてるんだよっていうことを、昔からご覧下さってきた方に感じ取ってほしいですね。


高崎:では展示までラストスパート、お互いに頑張りましょう。今日はありがとうございました。







山本 瑛美 プロフィール


1984年生まれ。千葉県出身、東京都在住。 グルメ情報を取り扱うIT企業でデータ系の仕事をしながら、2013年より写

真教室に通い始める。 2017年、Abox photo Academyアートコースの一期生として入塾し、高崎勉氏・松龍氏の元でアートとしての写真を勉強中。 趣味はスパイスカレー作り。


2015.10

『PHaT PHOTO写真教室 秋の文化祭2015 フォトブック賞』受賞


2016.09

『PHaT PHOTO写真教室 秋の文化祭2016 講師賞、優秀賞』受賞


2016.12

個展『パン、ときどき、旅。~マテリアルとカタルシス~』開催


2017.04

グループ展『神島塾5期生展』出展


Abox Photo Academy 写真展 2019


ー参加写真家ー

【アドバンストコース】

makoto umehara、大塚栄二、丹羽由美子、Jay Hong、ritsuko matsushita、山本瑛美

【ステップアップコース】

中田健夫、Ray Maebashi、Hiromi Yano

【Abox 富山招待作家】

堂川嘉久、粕谷千春

【講師】

高崎勉、松龍


2019.6.26(水)~6.30(日) 10:00~18:00(最終日のみ16:00まで)

目黒区美術館 区民ギャラリー

〒163-0063東京都目黒区目黒2-4-36

入場無料



Abox Photo Academy 事務局&Studio

(高崎写真事務所内)

東京都新宿区西落合 1-26-6
東京都印刷センター協同組合ビル 3階A号室

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