スタジオワークが多い身としては珍しく、秋から年末にかけて出張が続き、2ヶ月の間に北陸へ5往復、広島1往復という慌ただしさでした。目覚めた時に「今自分はどこにいるんだっけ?」と戸惑う朝も。
そんなわけで旅先では空き時間や移動の合間にフィールドに出て写真を撮っていましたが
そのデータを整理しているうちに「スタジオワークとフィールドワーク(屋外での撮影)の違い」について考えていました。
そもそも、写真は絵画と異なり、記録したい現象・事象を目の前に持ってこなければならない。だからこそ誰もが決定的瞬間に心奪われたり、偶然出逢った美しい光景を記録することに価値が生まれる、、。
つまり「再現性が難しい」ことが写真作品の価値の一つといえるでしょう。
フィールドワークでは天候、光の角度が刻々と変わり、日を改めれば植物も成長します。
毎時、毎日違う表情を見せてくれるからこそ、撮り甲斐があるというもの。
ですがスタジオワーク(その中でもとりわけコマーシャルの仕事)では頻繁に「再現すること」を求められます。
例えば、、、
「昨年発売した商品のシリーズに新しいラインナップが加わる。そこで前回撮影した製品の画像と並んでも違和感のないように、同じアングル、ライティングで撮影してほしい。」といったこと。
僕はスティルライフ専門だけど、人物を撮るフォトグラファーの場合では「タレントが数名並んだビジュアルが必要だが、スケジュール的に全員が揃わないから別々の日程で合成用に撮って欲しい。」という案件もあるでしょう。もちろんどんなにレタッチスキルが高くてもアングルや光がバラバラでは1枚の画像に仕上げられません。
広告の仕事ではなく、アートにおいても作品に一貫性が欲しい場合は「再現」しなければならないケースが多々あります。
そうしたことがスタジオフォトでは日常茶飯事なのです。
ではスタジオ撮影において「再現」するために、撮る人には何が必要なのか?
その答えは「カメラと被写体の距離、アングルを丁寧に決め、適切な光を照射すること。」
言葉にしてしまうとシンプルですが、アングル(カメラ位置)を正確に合わせるだけでも実際は一苦労です。(商品撮影の場合、それだけで数十分を要することがあります。)
今は画像データにシャッタースピードや絞りや、使用したレンズの焦点距離までもが記録されます。でもライティングの方法や被写体との距離などは残りません。
撮影セットをスマホ動画で記録したり詳細を紙にメモすることはできるけど、その情報だけで再現しきれるものではないのです。
極端な話、「赤の他人が撮影した詳細不明の写真と同じように撮って欲しい。」という依頼も少なくないのです。
面倒なことが多いスタジオワークですが、フィールドワークとは異なり、自分の手でパズルのピースを埋めていくような面白さがあります。そしてその技術を習得することで「再現」や「模倣」を越えて、新しい作品を生むのです。
美術科の学生たちが教室でモチーフに向かって黙々とデッサンし、先生が生徒の目線に寄り添ってアドバイスするようなワークショップをやりたいとずっと思っていました。
第3期生を迎えたAbox Photo Academy 商品撮影講座では1月から第2ステージに入り、いよいよイメージカットの実技の授業に。
僕のアトリエで掴んだ技術と経験と想像力は、スタジオワークに留まらず彼らの幅広いステージで役に立つことでしょう。
僕もこれからはアトリエを飛び出して、どんどんフィールドワークを増やしていきます。
いまフィールドで活躍する写真愛好家の方にも、是非スタジオ撮影を体験してフォトライフをより充実させていただきたいですね。
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