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Abox People Vol.10「アートフォト講座 Advanced Plusコース」受講生市ノ川倫子さん インタビュー



2022.6.11(土)から 目黒 金柑画廊で個展を開催する市ノ川倫子さんにお話を伺いました。



聞き手 Abox Photo Academy  講師  松龍


 

【写真との出会い】


松龍:まずは市ノ川さんのことをご存じない方のために簡単な自己紹介をお願いできますか。


市ノ川:普段は会社員をしながら、休みの日に作品を作っています。写真を始めたきっかけが、会社で広告媒体を作る部署に異動になり、その時に部署の後輩から写真のセミナーを勧めてもらったことでした。

 写真の知識があった方が自分も仕事の役に立つかなと思いました。

 そのセミナーを受けたことでカメラを手にしたのが2013年だったんですけど、それから作品をずっと制作して発表しています 。


松龍:それ以前はカメラと市ノ川さんの関係ってどんなだったのですか?


市ノ川:子供の頃から美術は好きで絵画とか見るのは興味があったのですけど、 写真は自分の中で現実を映すものっていう固定概念があって、良い写真っていうのは、世界の絶景であったり、スポーツの素晴らしい瞬間を切り取ったものっていうイメージが強かったんです。

 それに対して絵は自分の思った心情とかを載せて描けるから、絵画の方が面白いと思っていて、カメラという機械とか写真には興味が向かなかったんです。


松龍:さっき広告の部署のお話が出ましたけど、実際に自分が写真を撮る状況になったわけ?


市ノ川:いえ、カメラマンやデザイナー、スタイリストさんが商品撮影をしてる現場に立ち会うという仕事でした。


松龍: なるほどね。「こういうの撮って。」って依頼するクライアント側なんだ。


市ノ川:そうです。現場のクリエイターにこちらの希望を伝える側だったので、自分も写真のことを分かっていた方がクオリティの高いものが作れるだろうと思ったんです。最初に受けたのはカメラメーカーのセミナーだったんですけど、その後輩の誘いがなかったら自発的に写真に関わることはなかったでしょうね。


松龍:最初はどこのセミナーを受けたの?


市ノ川:オリンパスのセミナーです。ちょうどオリンパスが女性をターゲットにしたカメラを発売してて、やはりOL向けのセミナーだったんですけど。写真を習うだけじゃなくってマーケティング的にも、「そういうセミナーに参加する女性ってどんな年齢層で、どういう趣味嗜好の方たちが来るんだろう?」って、違う角度からも興味があったんですよ。

 でも自分の作品が講評されたときに割と褒められることが多くて、参加者による投票制のコンテストでも上位に入って。もしかしたら写真は自分に向いてるかもって思ったんです。

そしてセミナーは終わったんですけど、これで終わりにするのも勿体ないと感じたのが続けるモチベーションになりました。






 

【 他人と同じものを撮りたくない 】


松龍:セミナーに行って写真の撮り方や知識は短期間に吸収できたの?


市ノ川:もともと絵が好きだったから構図的なものの吸収は早かったんだと思います。被写体に対する視点も評価されましたね。


松龍:その頃って急激にカメラが進化して撮りやすくなってきた時代だから、操作がし易かったのも入り口としては合ってたんだろうね。


市ノ川:そうですね。パソコンなども得意な方だったので機械に対する抵抗も少なかったんですけど、オリンパスはフィルターの機能も充実してて表現の幅が広がって面白かったですね。だから絵を描くように自由に表現できる道具なんだって思えるようになってから、楽しくってのめり込みましたね。

 そのあと、いろいろな先生の元に4年ほど通ったんですけど、2017年にある教室のグループ展で発表したのが多重露光の手法でまとめた「DAYDREAM」です。それがきっかけでオリンパスギャラリーで個展を開催する流れが生まれたんです。


松龍:広告の仕事がきっかけで写真に出会ってから写真好きになっていった経緯はわかりましたが、そこから作家になるまでの経緯をもう少し詳しく教えていただけますか?


市ノ川:カメラって押せば写るじゃないですか。「自分だけが撮れるものってなんだろう」っていう想いは写真を始めた頃から抱いていたんですけど、何人かで同じ場で展示をしたことで、個性ということをさらに深く考えるようになりましたね。

 「多重露出」、つまり何枚かの写真を重ねて1枚の全く違う世界を生み出すということをカメラ内で撮影の時にできるということが、自分にとって個性を出す手法の一つがということになっていったんです。だからその機能が付いたオリンパスのカメラとの出会いも私には大きかったです。





市ノ川:土曜も仕事になることが多かったので、教室に通うということが難しくなる時期もありました。それでも通える講座は続けていたところ、楽しく撮り続けて発表も続けていくと、作品を通じて出会う方の幅も広がっていきました。すると写真を撮る以外の知識、、例えば海外にはどんな写真家の方がいるとか写真史のこととか、自分には全く知識が無いって気づいたんです。当たり前のことですけど、ごく限られたコミュニティの中でしか活動してこなかったんだなって。


松龍:そうした世界をもっと知る必要があるなって感じたんですね。


市ノ川:そうです。写真家の話になっても「奈良原一高って誰?」みたいな。自分はフィルム写真も通過してきてませんしね。どんどん写真の勉強にのめり込みました。ちょうど写真と出会う少し前に色々あって、「このあと自分ってどうなっていくんだろう?」って思っていた時期に写真に出会ったのが大きかったですね。


松龍:まさにハマったんだね。


市ノ川:そうですね。自分の空白の時期に出会ったこともありますけど仕事の状況も違ったら、ここまで写真に集中できなかったですね。


松龍:写真を取り巻くコミュニティの中に、作品を作り続けていればそのコミュニティの中で生きていける、立っていられる。というのがあるじゃないですか。そこには年齢、性別、社会的ポジション、そうしたものが全く関係ないフラットな関係性があると思っていて。

市ノ川さんは本当に、そのど真ん中にちゃんと立っているから人脈とか世界観がものすごくきちっと構築されてきているのが外側から見てて感じるんだよね。





 

【 誰かに「大丈夫だよ。」って言ってあげたい】


松龍:きっと市ノ川さんがなりたい姿、明確なビジョンがあって、まだ今も学びの途中だと思うんだけど、まだ欠落しているものを埋めるためにはどう考えていますか?


市ノ川:作品を作ることも発表することも好きなんですけど、私自身が制作を続けることで写真に癒され、慰められる経験をしました。だからその時の自分みたいに傷付いている誰かに「大丈夫だよ。」って言ってあげたい。

 最初の頃撮っていた写真は暗くて、今もお世話になっているオリンパスの方に「市ノ川さんは写真と出会って救われたんだね。」って言われたことが心に残っています。


松龍:今はファンタジーだもんね。


市ノ川:そうですね。だから。写真にずっと関わって作り続けていくということでしょうか。


松龍:世界に目を向けてはいるんだけど、作家としてはものすごく内側に向いていると思うんですよ。自分の中にあるものをそっと取り出して「ねえねえ観て」って。だから自分と対話している時間を大切にしていらっしゃるんでしょうけれど、本来市ノ川さんが持っている「少女性」を感じるんですよ。大人になって次第に別のものに置き換えられていくだろうものを大切にしているというか。


市ノ川:それは子供の頃、親が働いていて鍵っ子だったことも影響しているんですけど、一人で本を読んだり、空想する時間が多かったし、兄がいたことで家に漫画もあったから冒険もののファンタジーにも影響を受けたのかもしれません。ハッピーエンドのお話が好きなんですけどね。自分で漫画を描いたりするのも好きだったんですが、大人になるにつれて自分の才能の壁に当たってしまって、それからはもう描かないし、読むことからも遠ざかってしまいました。だから作品を本にして誰かに届けたいなって思うのは漫画じゃできなかったけど、写真ならできるって今は思いますね。


松龍:それは市ノ川さんのパーソナリティを語る上でとても大切なことだね。心の中の冒険心を形にしてファンに見せていってくれるっていう作家になってくれるといいなって思う。


市ノ川:逆に自分の世界をわかってくれない相手だっているわけだし、そういう人と出会うのって怖いじゃないですか。自分の世界を踏み荒らされちゃうかもしれないっていうのが。ずっと自分の中で大切にしまったままにしておけば煌き続けられたのに、誰かに見せることによって自分自身が傷ついてしまう。


松龍:そうだね。


市ノ川:でも自分の作品をお金を出してでも買いたい。という方がいらっしゃると、「私もう写真撮るの辞めました。」って簡単に言えない。責任は負わなきゃいけないってすごく思ったんです。販売するってそういうことなんだと。「次の作品も楽しみにしてます。」って言ってくださる方の期待も裏切れないですよね。そこに対しては覚悟を決めなきゃって思っています。作家になるということはそういうことなんだと。






 

【 個展"blurs. "について 】


松龍:6月に個展を計画なさっているんですよね。


市ノ川:そうです。目黒の金柑画廊で新作"blurs. "を展示します。

従来の手法の多重露光の作品に自分でペイントしたり、コラージュを施したりした「フォト・ブリコラージュ」という手法を編み出して昨年発表したんですが(※「作品「JARDIN」)、そのシリーズの発展形という位置付けです。

 今回の作品はそれを薄い和紙にプリントして、和紙の透け感を活かすために重ねて透過光で撮影しました。消えゆく儚さや重なることで浮かび上がるものたち、肉眼では捉えられない瞬間をストロボで撮影しました。


松龍:これはブリコラージュで作った作品をプリントした和紙があって、それをもう一度撮影しているっていうことなんだね。


市ノ川:はい。しかも丸まってしまう紙の物質性を敢えて活かして、立体的に構成した作品もあります。その儚さやおぼろげな部分に人生だったり、人間の一瞬一瞬の記憶の積み重ねを表現しています。重ねることでより色濃く心に残るものっていうのが人間の記憶や思い出に近いのではないかということを写真を使って表現したかったんです。


松龍:広告のお仕事でプロの現場を見ていたとはいえ、ストロボでライティングするって大変じゃなかった?


市ノ川:そうですね。いまAboxのAdovanced Plusに在籍してますが、実際に自分で撮ってみたものを講評の場で提示した時に高崎先生からたくさんアドバイスをいただいて、なんとか着地できました。





松龍:和紙を重ねたものを複写せずに、そのまま展示することもできると思うんだよね。だけど敢えて撮影したのはどこに良さを感じたんだろう。


市ノ川:和紙という物体がただ重なっているだけとはいえ、次第に紙の浮き具合が変化していくんですが、その中で「今この状態しかない。」というところでシャッターを切っています。だからフラッシュ光で残せるっていうことが重要だったんです。


松龍:実物を展示するだけでは市ノ川さんが捉えた、重なりの「瞬間」が伝えられないということなんだね。


市ノ川:そうです。その構図、瞬間を鑑賞してくださる方と共有できるということが写真というメディアの強さだなと改めて感じました。


松龍:タイトルの意味は?


市ノ川:"blurs. "は英語で「かすむ」とか「ぼやける」という言葉です。あと、日本語の「ブラす」にも掛けています。


松龍:なるほど。ところで会期中はお仕事のご都合もおありでしょうけど、在廊はなさるんですか。


市ノ川:はい、仕事は調整してなるべく在廊する予定です。在廊予定はSNSでお知らせしていく予定ですのでたくさんの方にご覧いただきたいですね。


松龍:僕たちも楽しみにしています。今日はありがとうございました。







 

【 市ノ川 倫子 Ichinokawa Tomoko プロフィール】

2013年より写真を始める。

デジタルでのカメラ内多重露光シリーズを中心にほか多数作品を発表しており

子供のころに思い描いていた空想や絵本の中の一ページを写真を使って世界を描き出すように作品を制作し続けている。


主な個展に「JARDIN」(2021年、外苑前 Nine Gallery)、

「PRESAGE」(2020年、代官山 ギャラリー子の星)、

「しのぶれど」(2020年、新宿 オリンパスプラザ東京【現:OM SYSTEM PLAZA】)、

「Utopia」(2019年、新宿 オリンパスプラザ東京)などがある。


主な写真集に『JARDIN』(2021年)、『しのぶれど』(2020年)、『BREATH』(2019年)など。


Portfolio:  https://www.tomokoichinokawa.com/

Instagram: https://www.instagram.com/tomocco.12/


【写真展情報】

市ノ川倫子 写真展"blurs. "


2022.6.11 Sat ‒ 7.3 Sun

Thu, Fri, Sat, Sun and Holidays

12:00 - 19:00


金柑画廊

〒153-0063 東京都目黒区目黒4-26-7

Meguro 4-26-7, Meguro, Tokyo, Japan 153-0063

03-5722-9061

開廊日 木、金、土、日、(祝祭日)


Closed on Mondays, Tuesdays, and Wednesdays

(The gallery will be open if a public holiday falls on a Monday, Tuesday, or Wednesday).

Operating hours: 12PM - 7PM

https://www.kinkangallery.com/