interview Vol.2-1
写真家 高崎勉 スペシャルインタビュー 前編
(Abox Photo Academy 設立準備中に塾長の高崎勉が横浜のフォトクラブ「イメージサークル」からのインタビューを受けました。ここにその記事を転載します。)
今年2月に故郷富山のミュゼふくおかカメラ館で個展「「30年の旅の軌跡~Tracks of Travel for 30 years~」」を開催、なおもハイペースで活動なさっている写真家の高崎勉さんのアトリエにお邪魔してお話を伺いました。
聞き手:手塚裕久(横浜フォトクラブ「イメージサークル」代表) 語り手:高崎勉 (写真家)
【ミュゼ展のこと】
手塚(以下:H):まずは最近のトピックスとして、故郷富山のミュゼふくおかカメラ館(以下:ミュゼ)で開催された写真展「30年の旅の軌跡~Tracks of Travel for 30 years~」を終えられたばかりですが、振り返ってみていかがでしたか?
高崎:実は会期を終えてからずっと忙しかったので、まだ総括できていないんです。2月25日からスタートして3月5日までが会期でしたが、そのあとは年度末のラッシュで広告の仕事に追われていました。4月の15日に富山ゼミ(写真講座)があったので再び富山入りしたんですが、それまで振り返るどころか、思い出すこともできなかったくらいでして。。本当はお世話になった方々にお礼状出したりしなきゃいけないのは分かってるんだけど、、、本当にごめんなさい、、ていう感じですね。
H:9日間というと、会場の規模にしては短く感じる会期でしたが、予想を上回る大勢の方がご来館なさったそうですね。
高崎:はい、実は僕の作品が「富山の方々に受け入れられるだろうか?」っていう疑問は開催が決まった時から抱いてたんですが、駐車場が混雑して警備の方に来てもらったと聞いた時は驚きました。
H:「富山の方に受け入れられないのでは。」というのは。。?
高崎:過去のミュゼの展示作家の傾向を見てもわかるように著名な写真家以外では風景写真や動物の写真展が多かったわけです。それに富山は風光明媚なスポットが多いですから、僕みたいな枯葉や影絵や線香花火を被写体にしたものが一般には分かりづらくて受け入れられないんじゃないかと。。
H:でも蓋を開けてみたら凄いことになっていたと。。
高崎:はい。初日は午前に新聞社の取材が数件と地元のラジオ&ケーブルテレビの出演があったのであまり在廊できなかったんですが、ラジオ局に向かう前に会場を覗くと叔父夫婦がお袋を連れて来てくれていて。他には1~2名のお客様がいらした程度だったので、まあ、そんなものだろうなって。その日の午後にトークイベントがあったのですが、だんだん人が増えてきて。。最初は会場に椅子を20脚くらいしか出してなかったんですが、あれよあれよという間に会場いっぱいに椅子を増やしていったのですが、結局立ち見が出たのには驚きましたね。。
H:東京からもお客様がいらっしゃったとか。
高崎:芳名帳の類はないので正確なことはわからないのですが、著名な写真家の方も東京からいらしたそうですし、僕の弟子やデザイン全般をお願いしていた國定さんご夫妻もサプライズで駆けつけてくださいました。大阪や、岡山からも生徒が来てくれたし、嬉しかったですね。
H:高崎さんは何度も個展やグループ展の経験がおありですが故郷での写真展というのは初めてでしたか?
高崎:ええ、初めてです。「30年の軌跡」と言っても、展示をするようになったのはここ10年ですし、もちろん一人でここまで広い会場で開催したのも初めてです。
H:いかがでしたか?
高崎:いきなり、同級生が訪ねてきて涙の再会。。ということがあるかと思ってましたが、それは全くなかったですね。(笑)まあ、親しかった友人はみな県外に出たので仕方ないですし、自分がこれまで不義理してきたので。幼稚園の先生が駆けつけてくださったのには驚きましたが。
H:高崎さんの幼稚園の先生ですか?!
高崎:ええ、実は10年ほど前に実家の近所の幼稚園にまだお勤めだったと聞いて娘を連れて挨拶に行ったことがあったのですが、それ以来でした。やっぱりちゃんと繋がってないとダメなんですよね。ですから、写真教室の受講生のみなさんには本当に感謝です。たくさんお知り合いを連れて来てくださって。
H:写真教室のことは後で改めて伺いますが、普段展示をなさる画廊と美術館での違い等はありましたか?
高崎:まあ、これも開催前から分かっていたことではあるのですが、画廊は作品を紹介して画商を介して販売するところまでが展示の目的になりますが、美術館は作品自体を販売する場ではないですし、画廊と違って入館料も発生します。お金を払って観に来てくださって、購入しないお客様と接するのは初めての機会でしたから、どんな立ち位置で何から話せばいいか、最初は戸惑いましたね。すぐに慣れましたけど。(笑)あと、展示に関しては会場の広さや高さが東京の画廊とは格段にスケールが違うので、作品が見劣りしないか気がかりでしたが、それは全く問題なかったと思っています。
H:事前に模型を作ったりして展示のシミュレーションなさるのですか?
高崎:いえ、そうなさる作家の方もいらっしゃるそうですが、僕の場合は図面をB1サイズに拡大してそこに額縁のサイズの付箋を貼り、スケール感をイメージしました。併せてL版の簡易プリントで順番など構成を詰めていく感じですね。
H:展示の際に大変なことがあったとか。
高崎:あ、湿度のことですか?作品は全て東京から車で運んできたのですが、まず、実家に運び入れました。
H:えっ。ご自身で運転なさって?
高崎:はい、東京の狭い道を走るのは嫌いなんですが、ロングドライブは好きなんです。富山での写真講座の時も機材満載で自走ですよ。
H:そんなご苦労があったとは。。
高崎:富山への道はもう慣れたのですが、さすがに冬場に車で来たことはなかったんです。でも今回のために初めてスノータイヤを買いましたから。(笑)そして、実家で作品を下ろした時、なんか嫌な予感がして。。富山の冬って東京に比べて湿度が高いんですよ。で、まず木製のパネル作品を開けてみたらシワだらけになってた。慌てて家中のストーブ集めて温めたんですが、急激な乾燥もいいはずがないので時間をかけて。翌日ミュゼに搬入してからも温め続けました。
H:額装作品は無事だったのですか?
T:いえ、一部はやり直しましたね。オーバーマットは栃木の業者から購入しているんですが、正月休みにマットに作品を貼る作業を終えました。そこで2月までかけての期間に東京の湿度に馴染んじゃったんですね。宿題はさっさと片付けたい性格なのですが、それが仇になったようです。(笑)会場で開けてみると、テープが剥がれていたり、たわみが生じていたので一部貼り直しました。
H:それは大変でしたね。
高崎:でもミュゼのスタッフの方が助けてくださって、無事オープンできました。
H:会期中、一番印象的だったのはなんでしょう。
高崎:作品をご覧になって泣いている方が多かったのが印象的でした。
H:それは凄いことですね。
高崎:恐縮しきりなんですが、、、東京での個展会場でも、時々いらっしゃるんですが、今回は結構見かけましたね。やはり、ご自身の過去と照らし合わせたり、最近亡くした方のことを思い出したりということらしいのですが、作品がそのトリガーになったということは責任感じちゃいましたね。あと「Life」という枯葉のシリーズは「世の中のアンチエイジング指向」に対するアンチテーゼで、女性に対してのメッセージが制作のきっかけだったんですが、年配の男性の方が涙ぐんで握手を求めてこられたのは戸惑いました。僕は作品を通じて人様に良い方向に影響を与えたいと思っていますが、一つ成就した気がしました。
【メディア出演のこと】
H:富山滞在中にはメデイアへの出演、取材も多かったそうですが、ラジオにもご出演なさったとか。
高崎:これもミュゼのスタッフの方々に頭が上がらないんですが、事前にたくさんの新聞社、放送局に取材の約束を取ってくださって。ラジオ出演は初めてだったんですが、楽しかったですね。ミュゼの地元の放送局ではパーソナリティの方がとても楽しい方で番組中は笑いが絶えませんでした。実はそのあともスタジオに遊びに行って出演してきたんですよ。
H:写真展が終わってからですか?
高崎:はい。「今度は写真講座の宣伝に来ました。」って。(笑)さらにその後、東京に戻ってからはメッセージとリクエスト送ったりして。。
H:曲もリクエストしたんですか?
高崎:はい。今、すごいなあと思ったのは地方局がインターネットで聴けるんですよ。で、こっち(東京)の空はどんより曇ってたんだけど、向こう(富山)は天気が良いって朝からパーソナリティの方が話されてたんでTodd Rundgrenの「I saw the light」をリクエ ストしたらライブラリに曲がないって(笑)。。仕方ないからもう少しポピュラーなStevie Wonderの曲に変えてもらった。普通、リスナーがリクエスト曲変更しないですよね(笑)。メッセージもFAXでなくMessengerだったし、東京に居ながら完全にゲストの立ち位置でした。
H:高崎さん、音楽にも詳しいですもんね。
高崎:偏ってるけど、、、「音楽と写真の話を合わせたら、4~5時間は番組持つな。」って局の方と話してました。(笑)
H:ラジオは何局ほど出演なさったのですか?
高崎:取材は3局でしたが生放送は2局。あとの1局が現場取材だけで、あとでラジオで編集して宣伝してくださるのだと思っていたら、なんとテレビのローカルニュースで取り上げてくださって驚きました。僕は観られなかったのですが、結構な時間を割いてご紹介いただいたようです。その局の方は4月の写真講座にもわざわざ顔を出してくださって、、取材がきっかけでみなさんと深くおつきあいさせていただいています。
H:そこまで深く関われるということは都会では、、、。
高崎:確かに難しいかもしれませんね。僕が富山出身の写真家ということで特に取り上げやすかったのかも知れませんけど、どちらも丁寧に写真展のことをご案内くださいました。そうしたことが動員数の拡大につながったのでしょうね。ずっと広告の仕事をしてきたにもかかわらず、これほどまでメディアの影響が大きいとは思わなかったです。
【写真を教えるということ】
H:先ほどから写真講座のお話が頻繁に出てきますが、いつ頃から教えるお仕事をなさってられるのですか。
高崎:2014年からです。
H:きっかけは?
高崎:いろいろあるんですが、やはり、世の中の広告写真の質が落ちてきて、こりゃ、マズいなと思ったのが一番の動機ですね。
H:質が落ちたと。。
高崎:はい。山手線や主要駅の広告、ビルボード、そして雑誌の広告ページなどメジャーなものはむしろ質が上がっているんでしょうけれど、裾野というか、、特に僕が大切にしている商品カットがないがしろにされ、質が著しく落ちた。それに関しては僕は時代の目撃者なので、そう言い切っていいと思っています。
H:それはなぜでしょう?
高崎:デジタル化の波と、不景気が同時期に来たことが大きいと思っています。誰もがシャッターを押せば、とりあえず写るようになったことで、一流カメラマンの出番が極端に減った。。頂点の超一流は変わらないんでしょうけれど、、、。中にはクライアントが自分たちで写真を撮るようになってきた。それは、時代の流れだから別にいいんですよ。ただ、広告写真の世界で育ってきた僕にとっては、業界の写真の質を向上してくださった先代や先輩に申し訳ない。歯止めをかけるためにも後進の育成に尽力すべきだと思ったんです。
H:富山でも広告写真の講座を開催するのですか。
高崎:ええ、ただ、富山では趣味の方が多いので作品の講座が主ですね。僕の写真講座は東京、富山、横浜、大阪で開催していますが、場所を問わずコマーシャルフォト講座(A-side)とアートフォト講座(B-side)と分けています。コマーシャルと言っても商品撮影を軸とした講座です。アートフォトは作品の講評会と撮影会が主なのに対して、コマーシャル講座はスタジオでのライティングが主です。ですから、仕事ではなくても、「趣味で作っているクラフトワークを写真に残したい。」「自分のブログに載せる商品写真が上手くなりたい。」という方でも勿論OKです。
H:長年かけて培ったことをあっさり教えてしまっていいのですか?
高崎:あっさりは教えませんし、教えようとしても無理ですよ。(笑)それに、僕が就職した組織で学んだことは基本的に教えていません。独立してから修得したものや、やはりカメラマンだった父から学んだことが多いですね。そもそも所属していた会社は機材の質と数が半端じゃないので、そのやり方では個人では無理です。ましてや初心者には、、、。なるべくシンプルな機材で、安全を第一にどう作業するかが一番大切なことだと思っています。
H:アートフォトの方はコマーシャルの講座とはどのように違うんでしょうか。
高崎:基本的にコマーシャルは30年の経験をもとにお話しするとしたら、作品フォトの方はその半分の15年の経験値に基づいてお話しします。実は僕、作品を撮るようになったのは1999年の独立以降なんです。でも、言い方を変えるとアートフォト(作品)の方は子供の頃から写真に触れているので、もしかしたら50年の経験値と言い換えられるかもしれませんが。コマーシャルは独自の揺るがない理論と哲学で進めますが、アートは現在進行形の写真家の姿を晒すということでもあります。上から目線ではなく、同じ目線から一緒に考えてアドバイスすることが多いですね。実際に体当たりでギャラリーにプレゼンしてきたことや写真展を幾度も企画・開催してきた経験などが根幹になっています。
H:現在進行形のアーティストの生の姿に接することができると。。
高崎:う~ん、まあそうなんだけど、、、、。僕のことを「アーティスト」っていうのはねえ、、、。実は自分の立ち位置が今、とても面白いことになっているなと思うんです。広告であれ、アートであれ、自分は写真家であることには違いないと思うんです。でも、世の中の「写真家」というのとは、かけ離れている気がします。だって、そもそも他の写真家とは空気が違うでしょ。って、判らないか。(笑)じゃあ、現代アーティストかと言われると、それも明らかに違う。でも、こないだも同業者の伊藤(之一)さんに言われたけど、「高崎さんはアーティストだ。」って。5年前の72ギャラリーでの彼とのトークイベントでも同じこと言われたんだけど、僕が一番価値観が近いと思うカメラマンに言われると、そうなのかなって。ミュゼでもお客様から現代アートの作家だと言われた。作品をご覧になって、そう言われるから仕方ないんだけど、自分自身はあまりカテゴライズされるのが好きじゃないんですよね。「カメラなんてただの箱だ」と思っているから、それほど機材に執着ないんで、カメラマンと言われるのも照れくさい。、、。ただ、コマーシャルであれ、アートサイドであれプロであることは間違いないと思っています。
>> 後編へ続く
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