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t.takasaki

ありがとう。

2020年度「商品撮影講座」Advancedコースの最終回を迎えた。

受講生のTさんのことはこのブログにも度々触れさせていただいたが、Stepupコースから2年間通っていただいたことになる。


2年目は作品制作を通して技術や思考の組み立て方を習得していくのだが、さすがに月2回のペースではモチーフになる被写体に尽きて、何を撮るか悩むことが避けられない。


初めの頃はTさんが好きなシルバーアクセサリーや革ジャンのテクスチャーに光を当てていたが、次第に旅好きなご両親の陶器のコレクションなどがレンズの前に登場することになり、作品の幅は広がっていった。

そして最後の撮影の機会にTさんが持参したのは高級万年筆。


「なんだよ、結構被写体に困っていたのに、まだまだ良いもの持ってるじゃないか。」

そんな会話を交わしていると、その万年筆が知人の形見であることに話が及んだ。


当初、言葉が少なくて自分の想いを伝えるのが得意とは言えなかったTさんだが、最近は熱い想いを最低限の言葉で表現できるようになった。

ビジュアルでコミュニケーションするとは言え、撮る行為の前に必要なのは言語化することだと僕は思っている。


目の前に現れた光景や被写体に、自分がどういう感情を抱いたのか。それが名言化できなければ露出さえ決められない。


いつものように撮影のセットを組もうとアトリエの隅に並んだストロボを手にしようとしたTさんに、僕は「今日は自然光で撮ってみないか?」と提案した。


これまで数灯のライトを駆使して撮影技術を経験してきたが、それは「光を作る」行為。


今日は「光を選ぶ」行為で被写体に向き合ってもらいたいと思った。

その方が情緒的な1枚が撮れる気がしたのだ。


撮影プランを練ってきてくれたTさんのアイデアに加え、僕は万年筆だけを撮るのではなく、窓辺で誰かに手紙を書いているようなシーンの再現を提案した。


シンプルな構図だが、万年筆のペン先の見える角度、そして数ミリ単位で表現がガラリと変わるピント合わせどころに苦心したようだが、この2年間の集大成とも言える良い1枚が生まれたと思う。


二年間伴走してきた講師の僕は、その原稿用紙に一言「ありがとう」と書かせていただいた。





2021年度のAbox Photo Academyは「商品撮影講座」を「コマーシャルフォト講座」と名前を変え、さらにアーティストのためのスタジオワークを学ぶ場として「スティルライフ講座」を新設した。


学期途中からの参加も可能なので、気になる方は事務局までお問い合わせを。



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