商品撮影講座のAdvancedコースは1年かけて20点以上の作品を撮り、ポートフォリオ(作品ブック)を完成させようという内容になっている。
Stepupコースを修了したメンバーが進級できるのだが、Tさんが当講座の初めての受講生となる。
Tさんはヘビメタが好きで普段からシルバーのメンズアクセサリーを身につけて革ジャンを着こなし、作品の世界観もそのまま、男性が好みそうな被写体を選んで作品を撮り続けている。
しかし時々、東北地方の木製の器や、外国の民芸品っぽい品々を撮ってくることがあった。
「う~ん、このギャップがTさんの世界観を構築しづらいんだよな。」
そう話していた矢先、僕たちは2度目の緊急事態宣言を受け、Onlineでの授業を余儀なくされた。
遠隔でのディレクションは広告の仕事でも当たり前になってきたところなので、授業でも取り入れてみることに。必然的にTさんのご自宅がスタジオとなる。
「今回は九谷焼のワイングラスを撮ってみようと思います。」とTさん。
九谷焼といえば僕の出身地のお隣、石川県の伝統工芸品。
ダークでラウドな世界を好むTさんが、九谷焼をどう表現してくるか想像できなかったので、まずはシンプルな背景で光を当ててみて被写体に向き合う「観察」を勧めてみた。
撮影の進行は以下のようなやりとりを経て進行。
「背景がシンプルな写真はもうOK。イメージっぽくして、もう1テーマ撮ってみよう。」
↓
「セットの奥にチラッと見える壁の雰囲気がいいね。部屋の雰囲気を活かしてみたら。」
↓
「グラスだけじゃ物足りない。陶器だと中身の液体が伝わらないから小道具にワインボトルはないの?」
↓
「後ろの棚の上にチラッと見える帆船は絵画?模型?それも画面に構成しよう」
まるでスタイリストが品々を集めてくれたかのように世界観が、あっという間に画面に映し出されてゆく。
そして、、、
「ところでさあ、、、被写体の陶器やこの部屋は誰の趣味?」
「父のこだわりです。」とTさん。
今回はイメージ作りのための観察から急遽イメージカットを撮ろうとなったのだが、、テーマが「被写体そのものの表現」から「ものを通してTさんのお父様を伝える」に推移したことになる。
撮影を続けるうちに、僕たちはStillli Life(静物画)の醍醐味に触れることになったのだ。
静物写真は人が写っていない写真。
でも直接的に人物が写っていなくても、或る人物を主役にしたり、社会的メッセージを盛り込むことができる。
人物を表現しようとした時、テーマは誰でもいい。その品を作った人、作らせた人、買った人、飾った人、頂いた人、壊した人、これから捨てようとする人、そしてそれを撮る人。「もの」には、たくさんの「人」が介在する。
「もの」を通して「ひと」を表現する面白さに触れた時間だった。
この経験を通じて、Tさんは、大きなステップを上がることができたと思う。
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